支援者インタビュー:【松江商工会議所 産業振興課】吉廣 之晴氏

Q.松江商工会議所様の事業内容、吉廣様の担当業務を教えてください

地元企業からの補助金・銀行融資などを中心に、税務・労務・IT化の相談対応などを行っております。それに加えて昨年度よりスタートアップの創出支援を行っております。

Q.島根県においてどのようにしてスタートアップ支援の体制を構築されてきましたか?

地方の経済基盤を支えているのは飲食店、美容室・理容室をはじめとした、特定の地域内でビジネスを展開されている方々です。商工会議所にもそういった方々が毎日相談にいらっしゃいます。しかし昨今の高齢者問題や後継者不足など地方特有の問題を鑑みると、新事業をどんどん創出して行かないと、地域の経済は下降をし続ける一方です。そのため今後、地域の経済基盤を支えるには、スモールビジネスだけではなく県境・国境に縛られない事業を展開し、短期間でスケールをするスタートアップも必要になります。こういった島根県の現状を改善しようと、島根県庁の有志の方と共に、地方発スタートアップ創出に取り組むために少しずつ準備を始めていました。しかし、今までの島根県ではスタートアップの支援体制はもちろんのこと、スタートアップに対する認知さえ全くありませんでした。正直、自分自身もほとんど理解できていませんでした。

そんな暗中模索をしていた2019年の夏に島根県が中国地方を中心にスタートアップ創出の実績のある経洗塾を招待し、島根県下でのスタートアップに対するリテラシーを高めるために、まず「スタートアップとは何か?」といった初歩から説明会を行っていただきました。その説明会で興味を持った経営者、起業家を募集し、”島根経洗塾第1期”がスタートしました。そして第2期から現在に至るまでは松江商工会議所が運営主体となって、説明会の開催、参加者の管理などを行っています。

Q.島根県下でのスタートアップエコシステムはどのような現状でしょうか?

島根経洗塾は今年度(2021年度)までに累計で約30名の方に参加していただいております。しかし毎年、頭を悩ませることなのですが、島根県下で次から次へとスタートアップを目指したいという方がなかなか現れず、参加者募集には苦労をしています。理想は毎年たくさんの応募があり、次々とスタートアップ候補が現れることですが、まだまだ”スタートアップエコシステム”と呼べる状況には至っていません。最大の要因は地域での支援体制が追いついていないことです。地域の金融機関としては企業に対して安定した利益を生み出すことを求めます。また私たちをはじめとした支援機関もスタートアップを理解し、支援を行うことができる者がほぼいません。そのためスタートアップのように、一時的に赤字となっても将来的に圧倒的な利益を生み出すようなビジネスモデルへの理解が進んでいません。チャレンジするベンチャーを探すことも必要ですが、必要な知識を持った支援者を増やすことが一番の急務だと考えています。

Q.経洗塾と出会って、一番驚いたことは何でしょうか?

今までの島根県下ではVCからの資金調達を受けることができる段階に至るまでの事業計画の作成のノウハウが存在しておらず、融資に頼った事業計画を作成していました。しかし経洗塾では、VCをはじめとする投資家から評価をしてもらえる事業計画書の作成のノウハウが体系化されており、参加者からはたくさんの満足の声をいただいています。私自身も最初は目から鱗の情報ばかりでした。「経洗塾に参加したことで、事業の新しい方向性が見つかりました!!」などの声を聞くと、とても嬉しくやりがいを感じますね。しかし島根県をはじめとする地方の支援機関では、まだまだスタートアップに対する認知が低く、アドバイスを十分に行うことができない状況です。最近あった出来事なのですが、ベンチャー事業を展開しようという方が融資を受けており、本当に幸せにしたいユーザーを対象にしたビジネスではなく、毎月の返済をするための別軸で安定した収益を生む事業を行うことが必要になってしまう。そうなると本来、目指されているビジネスに対して割くリソースが分散されてしまい、ビジョン実現に時間がかかってしまいます。

このように環境面での課題がたくさん顕在しています。経洗塾に出会うことができた経営者の方々は適切な支援を受けることができ、ご自身の目標とする事業に少しでも近づくことができる環境を提供できているのですが、自然発生的にスタートアップが生まれることはまだなく、”スタートアップエコシステム”の構築がまだまだ初歩の段階にあると日々痛感をしています。

この現状を改善するためには経営者の方がデット(融資)だけでなくエクイティ(投資)の知識を持つことが必要ですが、経営者から相談を受けた際に適切なアドバイスをすることができるアクセラレーターの拡充も急ぐ必要があります。そのためにもこれから島根県下での経洗塾の認知を上げる必要があると思いますし、経洗塾に参加さえすればご自身の事業にぴったりの支援を受けることができる。そんな場所、コミュニティを創ることが目標です。

Q.”オロチ会”(島根経洗塾に参加をされた方を中心としたコミュニティ)を運営されていますが、どういった特色がありますか?

経洗塾に参加された方がプログラム終了後にも継続的に意見交換を行うことができ、切磋琢磨をする場として島根にはオロチ会というコミュニティがあります。ただ現状では積極的にコミュニティを運営しようと先頭に立って引っ張ってくれる立場の方がなかなか出てきていません。私のような公的な立場の者が運営をするのではなく、先輩経営者とスタートアップ事業をこれから志されている方を中心とした、強固なコミュニティ作りが課題だと感じています。

経営者の方々が目指す最終的なゴールはそれぞれ違うためにどうしても統一的なコミュニティ運営を行うことは難しく、そこをどうやって改善していくか試行錯誤をしている段階です。そのためコミュニティでは一点を明確に目指すのではなく、それぞれの強み・特性を他の参加者に還元し、また時には助けてもらうことができるような場づくり、そして色々な属性の方が集まることで、いい意味で“化学反応”が起きる、そういったコミュニティが地方スタートアップエコシステムでは理想です。オロチ会では月1回の定例勉強会を実施しており、その中で森山昌幸さん(株式会社バイタルリード 代表取締役)をはじめとした様々な経営者が他の参加者に対して適切なアドバイスをできているというのはとても大きな進歩であると感じています。どんどんそういった方が出てくるようにコミュニティを醸成していくことが目標です。

Q.ご自身の今後の目標について教えてください

次の世代のスタートアップ挑戦者を生み出す活動にも注力をして行きます。その中の一つの取り組みとして、地元の高校生に5万円の予算を提供して、事業を自分自身で考えてもらうというプログラムを始動しました。プログラムへの応募を開始したところ採用枠5組のところに、10組もの応募がありました。多くの高校生が興味を持って応募してくれたことがとても嬉しく、すべての応募者を特別に採択した上でプログラムを始動しました。わずか3ヶ月間のプログラムではありますが「誰を幸せにしたいのか?」という自身の原体験を明確にするフェーズから、実際に事業を構築する過程を体験してもらう予定です。経洗塾を通して学んだことなのですが、やはり事業を興すには原体験を基にした「誰の何を幸せにしたいのか?」かが肝心となります。そのため今回も応募書類には、事業に対する原体験をメインに記述してもらいました。なぜなら原体験の強さこそがベンチャーが事業を推進する原動力となり、スケールするかどうかの分岐点になるからです。

また今回参加してくれた高校生には3ヶ月間の期間が終了後も、継続的にサポートをすることができるように、終わった後も経洗塾への道を用意し、十分な支援体制を提供したいと考えています。この事業も経洗塾という地方発スタートアップへの登竜門があることによって、成立するものだと感じています。

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